<戦場のピアニスト>

製作:2002(フランス・ドイツ・ポーランド・イギリス合作)
監督:ロマン・ポランスキー
出演者:エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、エミリア・フォックス

題名だけは聞いたことがあったのですが、内容は全く知りませんでした。しかし、なぜか主人公の顔と全体のポスターだけは記憶に残っていました。おそらくいろいろな情報番組などで紹介されたものが断片的に記憶に刻み込まれていたのだと思います。

そうした断片的な記憶から、なんとなく僕の中で想像していたのは「戦争中であったにもかかわらず、ピアニストとして活躍していたアーティスト」というものでした。しかし、実際の内容はピアニストとはかけはなれており、映画の全編ほとんどがナチスから逃れる主人公(ピアニスト)の姿でした。主人公がピアノを弾いている場面はほんのわずかです。

前に書いたことがありますが、映画の目的は「観客に感動を与えること」と「歴史の事実を後世に残すこと」だと思っています。その意味で言いますと、この映画は後者のほうでした。それまでの断片的な記憶をつなぎあわせて想像していた内容は「感動を与える」ほうだと思っていましたので、映画が始まってから物語が進むにつれてちょっと驚かされました。

映画の中でスクリーンの真ん中に幾度か19〇〇年〇月と当時の年代が表示されるのですが、それが出てくるたびに「あと何年で終戦だ」と自分で数えていたのが不思議です。端的に言いますと、この映画はナチスの非人道的な行為を糾弾することが目的のようにも思えます。先の戦争が終わってから75年が過ぎましたが、戦争の非人道的さを思い起こさせるという意味では今の時代こそ公開されるべき映画と言えそうです。

ユダヤ人というだけで迫害するのは、まさに人道に反する行為です。それを堂々と行えるような社会を醸成していったヒットラーおよびゲッペルスの大衆操縦術にはほんとうに驚かされます。反対に言いますと、そうした詐術にあっさりと乗ってしまう大衆のほうにも多大な責任があるように思います。

今、米国では「Black Lives Matter」運動が盛り上がっていますが、その運動に賛同しないどころか反対する人たちもいます。そうした人たちはトランプ支持者が多いような感じがしていますが、こうした人たちは差別を非人道的行為とは思わないのでしょうか。それが不思議です。

以前、アマゾンプライムで「それでも夜は明ける」という映画を観たことがあります。この映画は、ある黒人が理由もなく奴隷として売られてしまう内容なのですが、あとから解説を読みますと実話が元になっているそうです。米国という国は本当に複雑で、元はと言いますと、原住民がいたアメリカ大陸をあとから西欧人が侵略して自分たちの国を作ったのです。しかも、アフリカから黒人を奴隷として引き連れてもいました。

その歴史が、今の時代になっても未だに解決されてはいないことが国内外に知れ渡りました。しかし、国内外に知れ渡ったとは言いましても、そもそも論で言いますと、現代では人権の大切さを掲げているEUでさえ、かつては植民地主義がはびこっていた国家たちです。米国を批判する資格などありません。

この映画の最初のほうで1930年代のポーランドの街の風景が映し出されています。その当時のポーランドが先進的で画期的でおしゃれな雰囲気が漂っていたことに驚かされました。そのポーランドをナチスが侵攻してからの物語が「戦場のピアニスト」なのですが、ナチスの侵攻に従い徐々にユダヤ人が迫害されていくようすが描かれています。

この映画のほとんどは、そうした時代のようすを描いているのですが、そこが僕がこの映画を「ナチスを糾弾するのが目的」と感じる理由です。しかし、この映画を観ていて僕が考えていたのは、ドイツがナチスの台頭を許した土壌でした。

当時、ドイツは第一大戦の敗戦により多額の賠償金を戦勝国から押しつけられていました。今の時代に生きている僕からしますと、その賠償金の押しつけは勝者の敗者に対する仕打ちにしか見えません。歴史に「たら」や「れば」は意味がありませんが、勝者が敗者に対して無理難題を押しつけていますと、いつまでたっても諍いが収まることはありません。ロミオとジュリエットもそうでした。

昨日のニュースによりますと、また新たな「黒人が警官に射殺された」事件が起きたようです。もちろん抗議デモが起きていますが、米国のこうしたようすを見ていますと、公平で平等な社会を作る難しさを実感します。

個人的な意見を書きますと、トランプ大統領の施策は社会の分断をあおっているようで支持できません。トランプ大統領を支持している人たちを見ていますと、ナチスの論法にはまってしまったドイツ国民の姿と重なってしまいます。

共和党の中でも「トランプ氏不支持」を表明している議員がいますが、共和党にはこれだけ国内を混乱させているトランプ氏を大統領候補に選んだ責任があります。僕からしますと、共和党はトランプ氏に乗っ取られたように見えます。覚えている人もいるでしょうが、4年前、立候補した当初のトランプ氏は泡沫候補のひとりにすぎませんでした。その泡沫候補に乗っ取られてしまった共和党の責任は重いものがあります。

この4年間でトランプ政権を去った良識的な人たちがたくさんいます。身近でトランプ大統領と接してきた人たちが三下り半をつきつけたのです。そのことを忘れてはいけません。

これ以上大統領職についていますと、米国のみならず世界的に争いが起きそうで心配です。米国の良識が勝利することを願っています。世界中が11月の米国選挙を注視しています。

また、次回。

*追伸:このコラムを書いたあとに「海の上のピアニスト」という映画があることを知りました。公開されたのは「戦場のピアニスト」の4年前でしたので、もしかしたなら、この2つの映画が僕の頭の中でごっちゃになっていたのかもしれない、と思った次第です。

一応、報告いたします。また、次回。

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