その日の雰囲気

製作:2016年(韓国)
監督:チョ・ギュジャン
出演者:ユ・ヨンソク、ムン・チェウォン

映画の出だしは黒い背景に白地の韓国語が流れるのですが、韓国語の難解さを感じることとなりました。と書いたところで、ふと疑問が湧きました。韓国には「ひらがな」とか「カタカナ」とか「漢字」ってないんだろうか…。

そこで調べてみますと、そもそも僕の疑問に間違いがあることがわかりました。画面に流れていたのは「韓国語」ではなく「ハングル」というらしいです。つまり「日本語」にあたるのが「韓国語」で「ひらがな」とか「カタカナ」などに相当するのが「ハングル」ということです。ですから、正しくは画面に表記されていたのは「ハングル文字」とするのが正しい言い方でした。

それはともかく、この映画を一言でいいますと「恋愛映画の王道」でしょうか。しかも、作り方がハリウッド的で、「ハリウッドの恋愛映画の王道」ということができます。主人公の男女はもちろんイケメンと美女ですが、男性のほうは典型的な韓国のイケメンという顔の造りです。見れば見るほど「誰かに似ている」とは思うのですが、その誰かが最後まで思いつきませんでした。

それに対して女性のほうはすぐに思いつきました。あべ静江さんです。50才以上の方、いえいえ55才以上の方ですとご存じと思いますが、1970年代に「コーヒーショップで」や「みずいろの手紙」といったヒット曲を歌っていた清純派アイドルです。ムン・チェウォンさんはあべ静江さんと瓜二つというくらいそっくりでした。

映画の構成も王道といった感じで物語の途中で何か所か笑いを誘うエピソードが入ってきます。そのエピソードを演じるのが男性主人公の先輩という設定も「ハリウッド的映画の王道」です。女性主人公にしましても、映画の後半にひとり列車に乗りガラスに映る表情をアップにするカメラワークとそこで涙を流すのも「映画の王道」といった印象でした。

全体的に「恋愛映画の王道」といった感じですが、その割に題名だけはちょっと違った感じがしました。もしかしたなら韓国では違うタイトルがついているのかもしれません。先ほど「ハリウッド的」と書きましたが、話の展開が「ローマの休日」に通じることもその理由です。

「ローマの休日」は王女さまと新聞記者の「1日の出来事」を描いていますが、この映画も半分以上が二人が釜山で過ごす1日の出来事を描いています。展開だけに注目しますと、後半は韓国映画特有の「行き違い」要素も出てきます。女性主人公が素直になれずに別れ、そして感情の行き違いが起きながらも最後は結ばれるという展開です。昔妻と一緒にハマった「冬のソナタ」を少し思い出しました。

「冬のソナタ」ではペ・ヨンジュンさんの人気が沸騰し、韓国ドラマが人気になるきっかけを作りましたが、ヨン様も身長が180センチを超えています。この映画の主人公ユ・ヨンソクさんも183センチあるのですが、韓国の俳優さんはほとんどが高身長の方が多いようです。これも世界を視野に入れているからかもしれません。その意味で言いますと、日本のジャニーズ系の方たちはちょっとスケールの小ささを感じてしまいます。

韓国のエンタメ業界が世界を目指しているのはBTSの活躍で現実のものとなりましたが、BTSの活躍は顔の造りといった面でも大きな意味があるように思います。ユ・ヨンソクさんもイケメンではありますが、あくまでも「韓国風の」という前置詞がつきます。欧米諸国でアジア系の似顔絵を描くとき、吊り上がった細い目が象徴的になっていますが、日本人である僕からしますと、この描き方にはどこか「蔑視的な」匂いがしないでもありません。

その匂いをかき消す役割を果たしてくれたのがBTSです。イケメンを表現するとき「ソース顔」と「しょうゆ顔」という言い方がありますが、アジア系のイケメンは基本的には「しょうゆ顔」です。しかし、欧米諸国からしますとイケメンとは「ソース顔」だけを指していたように思います。その概念を打ち破ってくれたのがBTSというわけです。BTSがビルボードで首位をとった意味はとても大きいと思っています。

韓国で最近注目されているのは「女性の社会的立ち位置」です。「82年生まれ、キム・ジヨン」という本がベストセラーになりましたが、これほど進歩した今の時代でも女性は伝統という慣習に縛られているそうです。この本は映画にもなりましたが、小説と映画では描かれ方が異なっていたようで、そのことも物議を醸していました。

今回観た映画は4年前に製作されていますが、映画中での女性の会話から察しますと、かなり欧米的な考え方が韓国社会に浸透しているようにも見えます。しかし、現実の社会では女性の社会的位置や地位はまだまだ伝統や慣習に抑え込まれているようです。

「82年生まれ、キム・ジヨン」という本は、幼少の頃から男尊女卑という発想が刷り込まれている女性の実情を描いた作品です。一見すると、男女平等でありそうに思えても実のところは男性社会であり、女性ばかりが損な役回りをさせられている、とこの本の著者は訴えています。

話がそれてしまいましたが、恋愛映画としては若い女性の支持を受けそうな映画でした。

「来年も素敵な映画に出会えますように」という願いとともに今年を終えようと思います。

ありがとうございました。

来年もよろしくお願いいたします。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする