「アメリカンスナイパー」

製作:米国(2014年)
監督:クリント・イーストウッド
出演者:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン

残酷な映画でした。戦争を描いているので当然といえば当然ですが、残忍な場面もあり、観ていてとても辛く苦しい気持ちになりました。しかし、戦争の悲惨さを訴えるにはふさわしい内容の映画ともいえます。

タイトルの「アメリカンスナイパー」とは文字どおりアメリカ人の狙撃手のことです。当たり前ですが、狙う相手は敵です。しかし、問題は「敵」が悪辣は大人とは限らず、小さな子供の場合もあることです。実際、映画がはじまってすぐの映像は、武器を持って米国の兵士に向かって走っていく男の子を狙撃する場面です。スナイパーの息遣いが伝わってくる緊張感がありました。

映画の主人公は厳しい父親に育てられた兄弟で、二人はカウボーイとして生活を立てているのですが、その場面を見ていてトランプ大統領によって注目された「ラストベルト地帯」を思い浮かべました。「ラストベルト地帯」で生活している人たちは昔ながらの発想を持った白人というイメージですが、映画の主人公はまさにそうした環境にいる人のように想像しました。

今回、トランプ支持者たちによる議事堂襲撃という信じられない事件が起きましたが、さすがに今回ばかりはトランプ氏もやりすぎだと思ったようで、支持者たちをいさめていました。それにしても、トランプ氏の演説に簡単に動かされてしまう支持者たちはどのような精神の持ち主なのでしょう。

俳優のシュワルツェネッガー氏がトランプ氏および支持者たちを批判するスピーチをネットに投稿しました。ネットでは「感動スピーチ」と紹介していましたが、米国では今一つ盛り上がりに欠けているように感じるのは僕だけでしょうか。

シュワルツェネッガー氏は共和党員ですが、トランプ氏を支持した共和党の議員を非難していました。シュワルツェネッガー氏はオーストリアからの移民だそうですが、ナチスに占領された国家に生まれた経験から今回の襲撃事件に対して激しい批判を展開しています。トランプ氏を「指導者として失格」の烙印まで押しています。僕からしますと、とても感動的な内容で現在のアメリカの危機的状況を憂いているのが伝わってきましたが、米国から伝わってくるニュースを見ていますと、僕が思うほど反響がなかったように感じます。

ペンス副大統領でさえも、さすがに今回の襲撃事件に対しては大きな憤りを表明していますが、下院議長のペレス氏が起こした解任動議には反対しています。シュワルツェネッガー氏が訴えていたトランプ氏に対する非難に比べますと小さな反応のように思います。

この映画の後半では、主人公が戦地での究極的な緊張感により精神的に傷を負った姿を描いていましたが、僕は学生時代に観た「ディア・ハンター」という映画を思い出しました。「ディア・ハンター」はベトナム戦争に従軍した兵士が本国に戻って来てからも戦地でのストレスから逃れらないことを描いた映画ですが、若きロバート・デニーロが演じていました。

戦争には人間の精神を崩壊させる恐ろしい作用がありますが、実際に経験していない人がいくら訴えたところで説得力に欠けます。しかし、戦争の悲惨さをこれからの時代を担う若い人たちに丁寧に訴えていくことが大切です。ややもすると、戦う場面のかっこよさに心を奪われる可能性もあります。

現実の戦争は「かっこよい」ことなど一切なく、地獄が続くだけです。自分の自由も失われ、力のある者だけが得をする世の中になることです。そうした時代にならないように、政治には常に関心を持っておくことが重要です。

それでは、また。

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