「望み」

2020年製作/108分/G/日本
監督:堤幸彦
出演者:堤真一、石田ゆり子、松田翔太、竜雷太

第一感想は「重たい映画」です。社会派の映画ですので当然といえば当然ですが、今の時代のマスコミとかメディアについても考えさせられる内容になっています。少し視点を変えるなら「父子の映画」ともいえるかもしれません。息子と父の心のつながりを最後に持ってくるのですが、そのあたりは堤監督の真骨頂のような気がします。

第二感想としては、出演している俳優陣が豪華なことです。主演の堤さんと石田さんのほかに脇の方々も豪華でした。さすがKADOKAWAが製作しているだけのことはあります。刑事役の加藤雅也さんや週刊誌記者役の松田翔太さんもピッタリと役にはまっていました。特に松田さんはauのコマーシャルでしか、最近は見かけませんのでちゃんと俳優もやっていることがわかってよかったです。

冒頭に「重たい映画」と書きましたが、こうした社会派映画は「業績的にどうなのよ」と思い、調べましたところ、2億円の配収となっていました。映画業界に詳しくありませんのでわかりませんが、一応は合格点なのではないでしょうか。調べたときに知ったのですが、「報知賞」という映画の賞をとっていましたので、僕が知らないだけで社会的評価は高かったようです。

堤監督らしいといえそうですが、映画の冒頭では「誰もが羨むような生活」を送っている家族のようすが映し出されています。一級建築士が契約をしてももらうてめに、自分の生活ぶりをお客様に披露する場面があるのですが、あの一連の場面は「周りの人たちに自らの生活を見せることによって満足感を得る、いわゆる承認欲求が強い社会」を揶揄しているように思いました。

実は、こうした映画でいつも思うのですが、それなりの大きさの家に住んでいる余裕のある生活をしている人は社会全体からみますとそれほど多くはいないはずです。それを思いますと、少しばかり違和感を感じてしまいます。

ここ最近で人気のある映画といいますと「花束みたいな恋をした」に異論はないでしょう。この映画こそ今という時代を切り取っている映画という感じがします。生活ぶりもそうですし、男女の気持ちの移り変わりも見事に映し出しています。この映画について書きだしますと、長くなりますので今回はこれ以上書きませんが、現実感という意味ではこちらのほうが共感を得られるのは間違いありません。だからこそのここ数週間のランキング1位です。

話を今回観た「望み」に戻しますと、主人公の息子さんはサッカーに熱中していたのですが、ケガが原因で続けることができなくなってしまいます。それまで練習に明け暮れていたスポーツ少年が目標を失ったことからさ迷う心の移り変わりが映画の根底になっています。こうしたことは、サッカーとかケガとかは関係なく「目指すもの」が見つからないときに普通の若者に陥りがちな光景です。

以前、団地に住んでいる少年たちが社会からドロップアウトしていく過程を追っているドキュメンタリー番組を見たことがあります。僕自身もそうだったのですが、2DKの間取りに家族4人とか5人が住んでいるときの窮屈さは大きな問題です。家に帰っても落ち着ける空間がありません。ドキュメンタリー番組では、そうした少年が夜出かけて友だちとたむろすることが悪い仲間と出会うきっかけになると描いていました。

3年前に川崎市で中学生が仲間内のトラブルで惨殺された事件がありました。とても大きな反響がありましたのでご記憶の方も多いでしょう。この事件も突き詰めて行きますと、家庭内に夜中に落ち着ける空間がないことが背景にありました。そうした問題を解決する方策を社会が考える必要があります。

週刊誌記者役の松田さんを見ていて、思い出した事件とジャーナリストがいます。1991年に山口県で起きた「光市母子殺害事件」ですが、僕が見てきた事件の中でも特に印象に残っている事件の一つです。このコラムでも幾度か取り上げていますが、まだ20代前半だった妻と小さな子供を奪われた遺族がこみあげてくる感情を涙ながらに訴えている光景は忘れられません。

その遺族の心情をつづった本があるのですが、題名を「なぜ君は絶望と闘えたのか─本村洋の3300日─」という本です。この本を最初に見た時の感想は、このジャーナリストは「どうやって遺族の信用を得たんだろう」ということでした。当時、とても注目された事件でしたので、おそらくたくさんのジャーナリストの方々が遺族の心情を書くべくして近づいてきたはずです。

そうした中でこうした本を出版できるということは、遺族との信頼関係がなくしてできることではありません。そのときに初めて門田将隆さんというジャーナリストを知ったのですが、遺族が信頼したのですから、「よほど良心的な人だろう」と思っていました。しかし、近年見聞きするのはネトウヨとしての一面を見せる著者がどうしても重ならない印象を持っていました。

そのギャップに今一つ理解できない状態だったのですが、今回の松田さんの演じたジャーナリストと石田さんが演じる母親役の関係を見ていて、少しだけ納得した部分がありました。光市の母子殺人事件の遺族と門田さんの関係は似たような心のつながりだったのではないでしょうか。

今の時代の人、世間の視線を意識した人生。誰もが憧れるというような…。

誰もが羨むような人生

それが、生活を見られる仕事をしている父親の仕事

家族の中で、母親は女の子より男の子のほうをついつい大切する、というありがちなちょっとした関係も触れているのが面白い。

松田公太の役を見ていると、山口県光市で起きた母子殺人事件を取材した門田さんというジャーナリストを思い出した。門田さんはいい人かと思ったけど、最近出てくるのは保守派のとんでもない人のようなので、母子事件の主人公の人は、このジャーナリストと同じように騙されたとは言わないが、心の中に入られてしまったのかもしれない。

昔、少女を惨殺した少年Aという

スポーツに頑張っていた若者がケガなどでできなくなると、悪い方向へ進むは「やること」がなくなるから。その意味でいうと、僕はバレー部をやめたあと、榎とフラフラしていたけど、戻って正解だった。やることがないから。広瀬先輩に感謝だ。

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