三島由紀夫VS全共闘 50年目の真実

2020年
監督 豊島圭介

1969年5月に東京大学駒場キャンパスで行われた作家・三島由紀夫と東大全共闘との伝説の討論会の様子を軸に、三島の生き様を映したドキュメンタリー。

1969年5月13日、三島由紀夫は、大学の不正運営などに反対した学生によって始まった学生運動の中でも武闘派といわれた東大全共闘の討論会に、警視庁からの警護の申し出を断り単身で乗り込んだ。およそ1,000人の学生が集まった教室で、2時間半に及ぶ熱い討論を交わす。

僕のような中高年の年代ですとこの映画には興奮するのですが、今の若い人はどうなんだろう…、と思いながら観ていました。でも、僕からすると本当に面白かった。僕はアマゾンプライムで映画を毎週1回観ることに決めているのですが、サイトを開いてすぐにこの映画を見つけたときは興奮しました。

この映画は昨年テレビで頻繁に告知していましたが、そのときとても「見たいなぁ」と思っていましたが、映画館に出かけるのは好きではありません。ですので、うれしさも半端ではありませんでした。いつもはアマゾンプライムを開いても、「どれを観ようか」と一覧の中を行ったり来たりするのですが、今日はそんなこともなく一発で決まりました。

実は、前回観た「グリーンブック」も迷うことなくすぐに決まりました。この映画はアカデミー賞を受賞しているのですが、「面白そう」と思っていました。最近は観たい映画に出会えているのでとてもうれしいです。

「三島由紀夫VS全共闘」は僕よりも約10年先輩の年代の方々の映画です。僕が大学生になったときは、もう学園紛争も行われておらず、僕の年代は「モラトリアム世代」と呼ばれていました。「政治運動に関心が無いこと、あるいは関心が無い人」をノンポリと言いますが、まさしく僕の年代はノンポリの学生がほとんどでした。僕が学生時代にやっていたことといえば、麻雀とビリヤードと飲み会でしょうか。僕の周りのおしゃれな人たちの間ではスキーとテニスをやっている人が多かったですが、僕からするとチャラチャラしていて好きにはなれませんでした。

そんな学生生活を送っていた僕が言うのもなんですが、僕より10年くらい先に生まれた学生の方々の生きざまにはちょっと反発するものがあります。荒井由実さん(後の松任谷由実さん)が作り、“ばんばん”さんが歌ってヒットした「いちご白書をもう一度」という歌がありますが、その歌詞には

♪僕は無精ヒゲと 紙をのばして
♪学生集会へも 時々出かけた

♪就職が決まって 髪を切ってきた時
♪もう若くないさと 君にいいわけしたね

とあります。学生という安泰した身分で安全な立場にいるときには体制側に歯向かっていながら、社会に出る際には体制側にあっさりと取り込まれていく様が「長い物には巻かれろ」という気持ちが見えて、落胆もしくは憤りの気持ちになりました。サザンオールスターズの桑田さんもそうした心情を歌にしていますが、そのように思った若者は多かったように思います。自分のことは棚に上げて…。

この映画の見どころは、なんと言っても三島氏が「考えが正反対の学生1000人が待ち構える集会に、乗り込んでいくこと」に尽きます。しかし、三島氏も学生も実は超エリートの階層なのです。東大という普通の人の頭の持ち主ではないところがミソです。

映画の中盤で、難しい言葉のやり取りが続くのですが、そのやり取りは普通の人の脳ミソの持ち主ではほとんど理解できないのではないでしょうか。「なんか、難しいこと言ってる」という感じです。街場の片隅で細々と暮らしている市井の人々からしますと、雲の空の会話のように聞こえます。そこを学生はわかっているのか、、、詰まるところ、そこが学生運動が消えていった理由ではなかろうか…、と思う次第であります。

それはひとまず置いておくとして、たった一人で集会に臨んだ三島氏の度胸と行動力には感激しましたが、討論の途中で自らのことを「タバコを吸って、余裕があるように見せている」と話す場面がありましたが、興味深い発言でした。

そうなんです。タバコって「余裕があることをアピールするのに適している小道具」なんですよね。今の時代は公共の場ではタバコを吸えなくなってきていますが、一つのパフォーマンスのやり方が使えない時代になっている、とも言えそうです。しかし、そんなことでしか余裕を示せないことが問題ですが…。

映画のタイトルからしますと、「対決」が連想されますが、討論がはじまってすぐに両者が笑顔になっている映像が印象に残ります。これは悪い意味ではなく、笑顔で対立することでこの集会が意義あるものになったように思います。

また、映画を観ていくうちに三島氏がこの対決を自らの社会への影響力に利用していた節もうかがわれます。ですが、仮にそうであったにしても三島氏の学生との討論のやり方には敬服しました。映画の中で「街場シリーズ」で有名な内田樹教授が、「三島さんは学生の話を追い込むような論理の追及や語り口調を一度もしていない」と称賛していましたが、この討論会を実のあるものにした一番の要因は、三島氏の“学生の考えも尊重する”という姿勢にあるように思います。

ドキュメンタリー作品はとても作り方が難しいですが、直接的にカメラを向けられているわけではない撮り方ですので、真実に近いものが撮影できているのではないでしょうか。その意味でも超一級のドキュメンタリー映画になっているように思います。

とにかく、見ごたえがあって面白かった。

また、次回。  

P.S ナビゲーターが、あの東出昌大だったのは驚いた

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