蜜蜂と遠雷

2019年製作/119分/G/日本
監督:石川慶
出演者:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士、ブルゾンちえみ

あらすじ
優勝者が後に有名なコンクールで優勝するというジンクスで注目される芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑む栄伝亜夜(松岡茉優)、高島明石(松坂桃李)、マサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)、風間塵(鈴鹿央士)。長年ピアノから遠さがっていた亜夜、年齢制限ギリギリの明石、優勝候補のマサル、謎めいた少年・塵は、それぞれの思いを胸にステージに上がる。(シネマテゥデイより引用)

実は、ポスターと言いますか、アマゾンプライムの一覧で紹介されているサムネイル画像ではあまり観たい気持ちにはなっていませんでした。しかし、なんとなくですが日本の映画を観たい思いがあり、そんな中では原作が恩田睦さんで、しかも直木賞をとっているということで「観てみよう」となりました。また、僕が青春時代に「遠雷」という映画があったのですが、それも少し影響しています。

このように少しばかりネガティブな気分で観始めたのですが、途中で飽きることもなく、いうかどんどん引き込まれていき、終盤では感動さえしていました。これは監督の手腕が優れていたからでしょう。最後の場面は、ピアノを弾いているだけの場面でしたが、それでも十分見応えがありましたから、監督の手腕であるのに間違いありません。

恩田さんの原作と言いますと、以前「夜のピクニック」という映画も観ましたが、どちらにも共通していることがあります。それは、物語の中に悪党と言いますか悪い奴が出てこないことです。この映画の主人公4人はライバルでありながら、相手を蹴落とそうとする素振りなど微塵もみせません。それどころか、相手を敬い助け合っています。一般的な物語のストーリーは勧善懲悪となっているのが普通ですが、悪党を懲らしめる展開がなくても、見ている人に十分感動を与えることができることを証明しています。

この映画の肝は、映画の中盤で松坂さん演じる高島が語っている言葉に集約されているように思います。それは、高島が天才3人を評して「あっちの世界の人」と言っていますが、この言葉に尽きています。もちろん悪い意味で言っているのではなく、凡人ではわからない世界があることを伝えています。

今、ちょうどメジャーリーグで大谷翔平選手が活躍していますが、活躍どろこではなく大活躍と言ってもいいほどの成績を残していますが、大谷選手こそまさに天才でしょう。大谷選手が日本にいた頃、同僚の中田翔選手が大谷選手について「化け物」と言っていましたが、「あいつの打球を見ていると、俺が必死に練習していることが馬鹿らしくなる」とまで言わしめていました。まさに天才の器だったことを思わせるエピソードです。

天才には天才の宿命と言いますか、運命と言いますか、社会に対してその才能を披露する義務があるように思えます。若くしてお亡くなりになりましたが、かつて任天堂の社長だった岩田 聡氏は「自分がほかの人より少ない努力でできることは才能だ」 と語っていましたが、「ほかの人よりも少ない努力で済む」のですから凡人にはたどり着けない世界があるようです。

その天才の世界を凡人にもわかりやすく説明する役割をしていたのが松坂さん演じる高島でした。その意味で言いますと、天才の世界と凡人である観客の橋渡しの役を担っていたことになりますが、松島が前半で語っていた「生活に根ざした音楽」という表現が、心に染みてきました。「生活に根差した」はまさに凡人の発想ですが、この映画では「あっちの世界」を描いています。

映画の中で一瞬だけ、妬みを露わにする場面がありますが、天才を妬む凡人が社会を荒ませるように思わせました。凡人は天才を見て感動するのがより良き社会を作る基本のように感じました。

最後に、少しばかり悪い感想を書かせていただきますと、松岡茉優さんは演技をし過ぎのように思います。そこがちょっと鼻について気になって仕方ありませんでした。その意味で言いますと、キャスティングミスではないかなぁ、というのが正直な感想です。

それでは、また。

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