チェンジリング

2008年製作/142分/アメリカ 第81回 アカデミー賞(2009年)主演女優賞
監督:クリント・イーストウッド
出演者:アンジェリーナ・ジョリー、ジョン・マルコヴィッチ、ジェフリー・ドノヴァン

あらすじ
1928年、シングルマザーのクリスティン(アンジェリーナ・ジョリー)は、ロサンゼルス郊外で9歳の息子ウォルター(ガトリン・グリフィス)と暮らしていた。ある土曜日、彼女は同僚に泣きつかれて断り切れずに休日を返上して仕事へと向かう。暗くなって彼女が帰宅すると、家で一人で留守番をしているはずの息子の姿はどこにもなかった。
(シネマトゥデイより引用)

この映画は1920年代後半の米国を描いた作品なのですが、この時代に女性がシングルマザーとして、郊外のそれなりに広い家に住み、生活していることに驚かされました。僕の想像では、その時代米国は女性差別が激しく、一人でしかも子供を抱えて生きていくのは不可能のように思っていたからです。また、主人公(女性)の職場は電話交換手なのですが、そこで交換手を管理する役職として交換手の周りを動き回るのですが、その際にローラースケートを履いて移動しているのも驚かされました。

以前、「アメリカングラフィティ」という映画の中でハンバーガーショップの店員さんがローラースケートで移動しているのを見ましたが、電話交換手という職場でもローラースケートを履きながら働いている光景は驚きでした。

この映画では警察や市長などの腐敗を追求する場面が多いのですが、その先頭に立っているのが「教会」という点が、今の米国の政治状況の原点を表しているようで興味深かったです。ネットなどの記事では、トランプ元大統領はキリスト教保守派の強い支持があることで当選したと言われていますが、昔から教会、宗教といってもいいのかもしれませんが、そうした組織・団体が力を持っていたことを示しています。

それに関連して興味深く思ったのが、主人公を助ける役割をする教会の牧師さんがラジオ番組を放送していることでした。現在でも宗教団体はYouTubeなどメディアを上手に活用していますが、その当時から教会はメディアの重要性を認識していたことになります。

この映画の監督とプロデュースを務めているのはクリント・イーストウッドさんですが、イーストウッドさんはこのような社会的な映画を撮ることを得意としているように思います。言葉を変えるなら「社会的弱者の視点からの映画」ということですが、その意味で言いますと、警察の腐敗ぶりをメインに精神病院の悪用や死刑制度の是非などについても関心をもってもらおうという意図があるように思いました。そういう意味で、実に奥深い映画という印象です。

僕は素人であるにもかかわらず、俳優さんの演技力について書くことが多いのですが、この映画でも秀逸と思わせる場面がいくつかありました。例えば、ジョーンズ警部役のジェフリー・ドノヴァンさんは、最初に出てきてしゃべる演技だけで「人間的に悪い人」という雰囲気を醸し出していました。話の展開的には、まだ「いい人か悪い人」がわからない段階でです。演技力以外のなにものでもありません。

もちろん主演のアンジェリーナ・ジョリーさんも秀逸でした。特に、精神病院で担当の医師とやり取りをする場面は、単に言葉を交わすだけでしたが、言葉のやり取りだけで十分サスペンス感が満載でした。日本でも、最近少しずつ精神病院の運営方法について問題点があきらかになってきていますが、日本の精神病院はこの映画に出てくる問題点と似たような部分があるようです。大手メディアがもう少し大きく取り上げてくれますと、さらに注目が集まり改善の方向に進むように思います。

この映画で最も驚かされたことは、1920年代の米国では死刑執行の現場が公開されていたことです。米国は州によって法律が違うようで、現在はどのようになっているのかわかりませんが、昔は絞首刑が行われる瞬間が公開されていたのは驚きでした。

以前、死刑を執行する仕事に就いている方の心情を綴った本を読んだことがありますが、やはり精神的にキツイものがあるそうです。一応、ボタンを押す人が3人いて、誰のボタンが本物かわからないようにして、心理的負担を軽減するシステムになっているそうですが、それでもやはり気持ち的には落ち込むものがあっても当然です。

それにしても、当時からマスコミの力がとても大きかったことを示す場面がいくつも出てきますが、クリントイーストウッドさんはマスコミの問題点も描きたかったのではないでしょうか。「マスコミが報じることをすべてそのまま鵜呑みにしてはいけない」と訴えているようでもありました。

その意味で言いますと、このような映画が作られることに大きな意義があるように思います。

それでは、さよならさよなら。   

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