なぜ君は総理大臣になれないのか

2020年製作/119分/G/日本
監督:大島新
出演者:小川淳也

解説
2019年の国会で不正会計疑惑を質す姿が注目を集めた政治家の小川淳也を17年にわたり追いかけたドキュメンタリー。2003年、当時32歳で民主党から衆議院選挙に初出馬した小川は、その時は落選するも、05年の衆議院選挙において比例復活で初当選。09年に政権交代が起こると「日本の政治は変わる」と目を輝かせる。しかし、いかに気高い政治思想があろうとも、党利党益に貢献しないと出世はできないのが現実(映画.comより引用)

評判は前々から聞いていましたので、「いつか観てみたい」と思っていました。この映画は現在立憲民主党に所属する小川淳也の政治家としての活動のドキュメンタリーですが、前回の衆議院選挙までの活動を撮影しています。それから4年で任期満了の時期となり、衆議院選挙がはじまりますので観ることにした次第です。

アマゾンプライムで観たのですが、400円のレンタル料が必要でした。元来ケチな性分の僕ですのでいつもなら400円を惜しんで我慢するところですが、どうしても観たい気分が抑えきれず観ることにしました。

最初に、全体的な感想を言いますと、ありふれた言い方ですが、「面白かった」です。解説にありますように17年間も追っていますので、17年前の小川さんと現在の小川さんが比較できて興味深い気持ちになりました。誰でもそうですが、いろいろな面で「人間って年をとるんだなぁ」と感じた次第です。

若いときの純真な政治に対する思いが少しずつ変わっていく様子がとても印象的でしたが、つまるところ、純粋な政治的信条だけでは政治家にはなれないことが年を重ねるごとにわかっていく姿が、なんとも面白かったです。

しかし、僕からしますと官僚という政治とかかわりの深い職業についていながら「純粋な政治信条だけでは、政治家は務まらない」と理解していなかったことが、少し不思議でもありました。ある意味、そうしたところが政治家として苦労している一番の理由のようにも思います。

映画全体を通して最も感じることは、「政治家としての資質と選挙は全く別物」ということです。自らの政治の思いを実現させるには、政治家になるしか方法はありませんが、そのためには選挙で勝利を収めるのが必須条件です。繰り返しになりますが、その選挙は政治信条とはほとんど関係ありません。そこが小川さんが苦しんでいるところでしょう。

画面で僕が一番心を揺さぶられたのは、敗戦が決まったあと支持者の方々にあいさつをしている父の姿を見ている二女の表情です。おそらく父のことが好きで、たぶん尊敬しているのでしょう。そんなことが伝わってくる表情をしていました。

政治家には内の顔と外の顔があってしかるべきだろうとは想像しますが、そこの乖離があまりに激しいと一緒に生活している家族は心がバラバラになるものです。しかし、妻である奥さんも含めてですが、家族全員が父を応援している姿、さきほどの二女の表情などを観ていますと、この小川さんは「人として、本物」と思わせます。

先日のニュースで、その小川さんが同じ選挙区に候補者を立てるする維新の会に対して「取り下げてほしい」と要請したことが物議を醸していましたが、こうした行動は見ていてあまり感心できることではありません。なんとしても自民党に勝ちたいという一心から出た勇み足的行動でしょうが、以前の小川さんでしたら、とらなかった行動だったように思います。少し変遷してしまったのかぁ、と残念に感じました。

映画の中で「自分の思いを実現するには、党の中でも出世しなければいけない」と話す場面がありますが、「政治家の資質と選挙は別物」と同じように「政治家の資質と実力」も別物といったところがあります。これはどんな組織にも当てはまりますが、自分の実力を発揮させるには、それなりのポストに就くことが先決です。いくら高尚な考えを持っていようとも、平社員では実行に移すことはできません。

自分の思い通りに仕事をしようと思うなら、それだけの力というか権力を持つことが先決です。それなくして実力を発揮することなどできません。そんなことも教えてくれる映画でした。

最後に、この映画の監督は大島新さんという方で、「情熱大陸」「ザ・ノンフィクション」など、数多くのドキュメンタリーを手がけてきた方でした。この映画は監督自らがインタビューをしたりナレーターを務めているのですが、その声がとても魅力的でこの映画のよさに貢献しているように思いました。

僕が若い頃、AV業界には代々木忠さんという名監督がいたのですが、代々木さんのその魅力的な声の持ち主でその声がAVの質を高めていましたが、その方の声に似ていると思いました。しかも今回知ったのですが、この監督はあの映画監督大島渚さんのご子息でした。おどろき、おどろきです。

それでは、さよならさよなら。

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