エール!

2014年製作/105分/G/フランス
監督:エリック・ラルティゴ
出演者:ルアンヌ・エメラ、カリン・ヴィアール、フランソワ・ダミアン、エリック・エルモスニーノ

あらすじ
フランスの片田舎の農家であるベリエ家は、高校生の長女ポーラ(ルアンヌ・エメラ)以外、全員が聴覚障害者。ある日音楽教師トマソン(エリック・エルモスニーノ)に歌の才能を認められ、パリの音楽学校で行われるオーディションを勧められたポーラは喜ぶものの、歌声を聴けない家族から反対される。家族のコミュニケーションに欠かせないポーラは、考えた揚げ句……。

あとから知ったのですが、現在この映画のハリウッド版リメイクが公開されているそうです。しかも、アカデミー賞の有力候補ということらしく、脚本が素晴らしいことの証左です。それは『コーダ あいのうた』という映画ですが、ハリウッドがフランスのリメイク版を作るのはよくあることですが、なんとなく納得できない部分もあります。

フランス版がつまらなくて、それをもっと面白くしようということでリメイク版を作るのなら、まだ少しは理解できますが、フランス版でも素晴らしく賞を受賞するくらいの映画であるにもかかわらず、わざわざ挑発でもするかのようなリメイク版はどこかざわついた気分にさせます。

それはともかくとして、実話をベースにしているそうですが、これは家族とはなにか、とか親子関係の難しさとか介護の難しさ、などを考えさせられる内容になっています。最近はヤングケアラーが問題になっていますが、主人公の置かれている状況は、考えようによっては虐待されているヤングケアラーと見えなくもありません。

学生生活を犠牲にして耳が聞こえないほかの家族をサポートしているのですから、立派なヤングケアラーの問題です。しかも最終的には、家族の元を旅立つのですが、そこに至るまでの葛藤はやはり、「家族とはなんのためにいるのか」と考えざるを得ません。

普通は、親は子供を立派な大人にするのが義務という基本的な発想ですが、現実問題として年長の子供が下の兄弟姉妹の面倒を見るのは昔からのしきたりというか、慣習だったはずです。ヤングケアラーという大げさな見方ではなく、同じ屋根の下で暮らしている家族なのですから、「みんなで協力して生きて行こうね」という発想が悪いとは思えません。というか普通の発想のように思います。

しかし、「家族が一つになってみんなで力を合わせて行こう」とするのは子どもなり兄弟なりを「家族に縛り付ける」ことと同義語であることも明白です。そうなりますと、やはり悩み迷います。…いったい、家族ってなんのためにあるのでしょう。

NHKの家族に乾杯という番組を見ていますと、大家族を称賛する雰囲気がありますが、大家族であればあるほど、たくさんのいろいろな性格の人が一緒に暮らすことですから簡単なことではないことも容易に想像できます。血がつながっているからといって、仲が良いとは限らないのはドラマなどでも描かれていますが、人間の難しさはそこにあります。

この映画はまさにそこに焦点を合わせていますが、結局最後は人間はひとりになるのではないでしょうか。そんなことを考えさせられた映画でした。

それでは、さよならさよなら。

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