夢売るふたり

製作:2012年(日本)
監督 西川美和
出演者:松たかこ、阿部サダヲ、田中麗奈、鈴木砂羽、

最後の場面で、学生時代に見た「卒業」という映画を思い出しました。最後の場面とは松たかこさんがカメラをただ見つめるだけの映像なのですが、そのなにもしない演技こそが演技の真骨頂と思います。素人である僕が言うのもなんですが、俳優さんの演技は「なにもしない」ときにすべての実力が出ると思っています。

「卒業」では主人公のふたり(ダスティン・ホフマンとキャサリン・ロス)が結婚式場から手と取りあって逃げ出し、そしてバスの一番奥の座席に座って「ただ前を見つめる」だけの映像です。そのときのふたりの表情が僕には忘れられません。この映像が僕に「演技はなにしないことにこそある」と思わせたきっかけです。

この物語は飲食店の場面が多いのですが、ついつい自分の過去とダブってしまいます。松さんがひとりで居酒屋を切り盛りしている場面があるのですが、「ひとり」で切り盛りするのは不可能です。僕がラーメン店を営業していたときに最も不安に感じたのは混む時間帯の人員確保でした。人員が確保できない状況での営業は、結局はお客様に不満を与え、客離れにつながります。そんなことを思い出していました。

松さんの相手役は阿部サダヲさんですが、阿部さんは「彼女がその名を知らない鳥たち」という映画にも出演していますが、この映画が抜擢の理由になっているのではないでしょうか。この映画は2012年製作ですが、もう9年も前です。ふたりが映画の宣伝でいろいろなメディアに出演していたのを覚えていますが、9年も経つとは驚きです。

全体で2時間ちょっとの長さですが、観る前は「ちょっと長い」という印象を持っていたせいか、出だしの部分が冗長な感じを受けました。たぶん監督にとってはこの前段がとても重要と思えていたのでしょう。

監督は西川美和さんですが、現在「すばらしき世界」という役所広司さん主演の映画がヒットしています。その関係で先日テレビで見たのですが、僕の好きな是枝裕和監督の弟子ということを知りました。それを知ってしまいますと、どことなく是枝監督の匂いが感じられる気がしてくるから不思議です。

ふたりが売っている夢はつまるところ「詐欺」なのですが、結婚といいますか、人生といいますか、生きることの意味を考えさせられます。大恋愛をして結婚しても、のちに離婚する人は多数いますが、そうなりますと、どうやって結婚相手を選ぶのが理想なのか疑問が起こります。

僕は結婚してもうすぐ40年経ちますが、その経験からしますと、あくまで僕の場合ですが、結婚って日々を一緒に暮らすことではないでしょうか。なんとなくそんな気がします。一緒に暮らす、同じ時間を一緒に過ごす、これが結婚するということではないでしょうか。

逆に言いますと、それが嫌なら、もしくはそこに幸せ感を見出せないなら結婚する意味がないように思います。そんな根本的なことについて考えるきっかけを与えてくれる映画だと思います。

それじゃ、また。

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